「負の世界遺産」アウシュヴィッツで恒久の平和を祈る

世界には数多くの世界遺産が存在し、その存在はいつも私たちの心を大きく揺さぶり忘れられない思い出を与えてくれます。そんな世界遺産の中に「負の世界遺産」と呼ばれるものがあるのはご存知ですか?今回はそんな「負の世界遺産」の一つであるポーランドにある「アウシュヴィッツ・ビルケナウ国立博物館」について実際にその地を歩き、目にしたものをお伝えしたいと思います。(ショッキングな写真は控えています。)
負の世界遺産

「負の世界遺産」という呼称自体は日本独自のもので、世界的に使われているものではないそうなのですが、文字通り「人類の歴史の中で人間が犯してしまった大きな過ちに対して二度と同じ轍を踏まないように、と戒めとして存在している世界遺産」のことを指しています。今回お話するポーランドの「アウシュヴィッツ・ビルケナウ国立博物館」の他にもマーシャル諸島の「ビキニ環礁の核実験場跡」や日本の「原爆ドーム」などいくつかの負の世界遺産が世界には存在していて、中にはショッキングなものも多く訪れることで心が傷ついてしまうことも…。悲しい歴史を風化させないために負の世界遺産を訪れることは素晴らしいことですが、自身の心を守ることも忘れないようにしましょうね。
アウシュヴィッツ・ビルケナウ国立博物館までの道のり

アウシュヴィッツ・ビルケナウ国立博物館へは近隣都市であるクラクフのクラクフ中央駅のバスターミナルから長距離バスが出ており、所要時間は約1時間半ほど。チケットはクラクフ中央駅の長距離バスチケットカウンターで購入するか、バス乗車前にドライバーさんからも購入することができます。博物館はガイドなしで自由に見て回ることができる時期・時間帯とガイドツアー参加者のみが入ることができる時期・時間帯がありますのでバスの時間を含めて事前に確認しておいた方が良いでしょう。また、ポーランドは博物館や美術館に入館する際に身分証明書の提示が必須となっておりますのでパスポートも忘れずにお持ちください。
目をそらしたくなる事実

筆者はガイドツアー参加者のみ入場ができる時間帯に訪れたため英語のツアーガイドに参加することに。ガイド用のヘッドセットを装着して見て回るためガイドさんから多少離れても貴重なお話をしっかりと聞くことができました。かつてのアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所がそのまま博物館になっているのでそれぞれの建物に入りながら歴史的背景や実際に何が起こっていたのかを学ぶことができ、中には収容されていた方の写真とその方の情報が建物の廊下の壁一面に並んでいるという展示も。その方がかつてどのようなことを生業にし、どのくらいの期間を収容所で過ごしたのかが記載されているのですが、展示された写真の一人ひとりにあったはずの人生について考えずにはいられませんでした。
施設内を包む悲壮で重苦しい空気

この収容所に収容される人々の多くは「強制労働所」と言われて連れてこられており、収容所の門に記されている「ARBEIT MACHT FREI(労働はあなたを自由にする)」という言葉を信じていつの日か自由になれると希望を持っていた方もいたのでしょう。残された収容されていた方々の遺品が展示されている建物では靴やメガネ、松葉杖、鞄などの多くの「誰かの大切な持ち物たち」が今も持ち主の帰りを待っているように見えます。それぞれの人がどんな思いでこの持ち物を身につけ、どんな思いで手放したのか。どんな思いでここに来て、どんな思いでその生涯を終えたのか。考えれば考えるほど涙が堪えきれませんでした。
ガイドさんの願い

筆者が参加した英語ガイドツアーのガイドさんはポーランド出身の方だったのですが(この収容所ではユダヤ人だけでなく多くのポーランド人も犠牲になっています。)、それぞれの展示に対して丁寧に解説をしてくださり、また参加者からの質問にも真摯に答えてくださいました。時折、言葉を詰まらせたり、目に涙を浮かべたりする様子もあり、ガイドさん自身の平和を切に願う思いや犠牲になってしまった方々への敬意、二度と同じ轍を踏ませない、同じ目に遭わせないという強い決意がひしひしと伝わってくる素晴らしいガイドでした。また、それぞれのガイドさんが「自分が世界に伝えるんだ。」という大きな意義を感じて仕事をされている様子にもとても感銘を受けました。
アウシュヴィッツで恒久の平和を祈る

いかがでしたでしょうか。ヒトラー率いるナチス・ドイツがおこなったこの「ホロコースト」を知らない方はほぼいないと思いますが、実際にその地を訪れ自分の目で見て、全身で感じる事は自身の心に改めて「これは決してフィクションではないしましてや他人事でもない。」と刻むことができる大きな意味のあることだと確信しています。今回お話しした以外にもガス室などの凄惨な展示が多くありますが、それはみなさんの目で見て実際に感じていただけたらと思います。たくさん泣いて考えて疲れたら、ぜひクラクフで甘いポンチキ(ポーランド伝統の甘いおやつ)を食べて自分に優しくしてあげてくださいね。