世界遺産が密集する歴史の街、マカオへ

かつて東西文化が交差した貿易拠点、マカオ。わずか数平方キロメートルの旧市街地には、ユネスコ世界遺産に登録された歴史建築がぎゅっと集まっています。セナド広場を起点にして旅をすすめてくことをおすすめします。ポルトガル統治時代の名残を色濃く残す教会や広場、要塞などが、石畳の路地の合間に点在し、散策するだけで何世紀もの歴史を肌で感じられる場所。世界遺産を巡る旅を楽しむには、これほど効率よく回れる街は他にないかもしれません。今回は、そんなマカオの見どころの中から、特におすすめの5スポットをご紹介します。
静寂と歴史が重なる聖アントニオ協会

聖アントニオ協会を訪れたのは、マカオ旧市街をぶらりと歩いていた時のことでした。華やかなセントポール天主堂跡から少し坂を上った先に、ひっそりと佇む石造りの教会が目に入ります。派手さはないけれど、長い年月を経た重厚な雰囲気が伝わってきて、思わず足を止めました。中に入ると、礼拝堂にはほとんど人の姿がなく、静寂が心地よく広がっていました。高い天井から差し込む自然光が白い壁を柔らかく照らし、まるで時が止まったような感覚に包まれます。木製の椅子に腰をかけて、しばらくぼんやりとその空気感を味わいました。ここが数百年前、ポルトガル人たちによって建てられた場所だと思うと、不思議なつながりを感じます。実はこの教会、「恋人たちの教会」としても知られていて、かつては多くの結婚式が行われたそうです。地元の人々にとっても特別な場所というのが、どこか伝わってくるような温かさがありました。聖アントニオ協会は、世界遺産「マカオ歴史市街地区」の一部として登録されています。観光名所の喧騒から少し離れて、歴史の重みを静かに感じたい時にぴったりの場所。近くにはカーザ庭園やカモンエス公園もあるので、あわせて散策すると心が落ち着く時間を過ごせます。
白亜の回廊が語る慈愛の歴史、仁慈堂大樓

セナド広場の賑わいの中で、ひときわ目を引く白い建物がありました。柱が並ぶアーチと優雅なバルコニーが印象的なその建物が、仁慈堂大樓。かつてのマカオの福祉活動の中心地であり、今では世界遺産の一部として保存されています。外観はコロニアル様式の典型で、広場のカラフルな石畳と見事に調和しています。写真を撮っている観光客は多いものの、建物に足を踏み入れる人は意外と少なく、静かな展示室が広がっていました。内部には、ポルトガル統治時代の福祉や医療に関する資料が並び、当時の孤児院や施療院の様子を今に伝えています。私が特に印象に残ったのは、建物2階の回廊から見下ろすセナド広場の景色です。観光客であふれる広場を、まるで時代の観察者のような視点で眺めることができて、不思議な感慨が湧いてきました。この建物が、長年にわたって多くの人を支えてきた場所であることを思うと、その眺めにより深みが加わります。仁慈堂大樓は、マカオが単なる観光地ではなく、多様な人々が共に暮らしてきた歴史の舞台であることを実感させてくれるスポットです。セナド広場からすぐの場所にあるので、ショッピングや食事の合間に立ち寄って、静かに歴史に触れてみるのもおすすめです。
マカオの空に広がる絶景、モンテの砦

マカオ旧市街を歩いていると、ふと見上げた先に緑に囲まれた高台が見えてきます。それが、モンテの砦。セントポール天主堂跡のすぐ裏手にあるこの砦は、かつてマカオを守るために築かれた要塞で、今では市内を一望できる絶景スポットとして知られています。坂道を少し上ると、視界が開けて、広々とした石畳の広場に出ます。砦の上からは、マカオの新旧が混在する風景が広がっていて、高層ビルの向こうに珠江(パールリバー)を望む眺めは圧巻。訪れた日は風が心地よく、ベンチに座ってしばらく景色を眺めてしまいました。この砦は17世紀初頭、イエズス会の司祭たちによって築かれたもので、当初は修道院を守るためのものでしたが、のちにマカオ防衛の中核を担うようになりました。今でも砲台が残されていて、静かな空気の中にも当時の緊張感を想像させてくれます。敷地内にはマカオ博物館もあり、マカオの歴史や文化を深く知ることができます。見応えのある展示が揃っていて、砦の観光とセットで訪れるのがとてもおすすめです。歴史の中で何度もその姿を変えてきたモンテの砦は、マカオという街の成り立ちを視覚と体感の両面から理解できる場所。喧騒から少し離れて、風と歴史を感じる贅沢な時間が過ごせました。
聖パウロ歴史堂跡

マカオの象徴とも言える聖ポール(サン・パウロ)天主堂跡。初めてその姿を目にした時、石造りのファサードが青空にくっきりと浮かび上がり、思わず息をのんでしまいました。階段の上に立つその荘厳な姿は、まさに「廃墟の美しさ」を体現しているようで、写真で見る以上の迫力があります。この建物は、1602年に着工され、1640年に完成したアジア最大級のカトリック教会だったそうです。ですが、1835年の火災によって大部分が焼失し、現在は石造りの正面ファサードだけが残されています。それでもなお、圧倒的な存在感を放ち、観光客が絶えないのも納得です。細部を見ていくと、キリスト教だけでなく中国的なモチーフや装飾も見られ、東西文化の融合がこの建物に凝縮されていることを実感します。ファサードの彫刻には、天使や聖人のほか、龍や漢字も見られ、まさにマカオらしい宗教建築です。階段を上りきって振り返ると、背後にはマカオの街並みが広がり、歴史と現代が共存する風景が広がります。ここに立つと、マカオという都市がいかにして形成されてきたのか、その一端に触れたような気がしました。聖ポール天主堂跡は、「マカオ歴史市街地区」として世界遺産に登録されており、単なる遺跡ではなく、今なお語りかけてくる歴史の語り部のような存在です。マカオに来たら絶対に外せない場所のひとつです。
穏やかな光に包まれるマカオ大聖堂(カテドラル)

セナド広場から少し歩いた先、賑やかな通りを抜けると突然静けさに包まれるエリアがあります。そこに静かに佇むのが、マカオ大聖堂(カテドラル)。真っ白な外壁と穏やかな雰囲気が印象的で、観光客で賑わうエリアのすぐそばとは思えないほど落ち着いた空気が漂っていました。もともとこの場所には、1576年に建てられた木造の教会がありましたが、その後何度も建て替えが行われ、現在の姿になったのは1937年。外観は比較的シンプルながら、ゆるやかな曲線を描くアーチや鐘楼が印象的で、内部に足を踏み入れると、やさしい光に満たされた礼拝堂が出迎えてくれます。大理石の祭壇や、木彫りの装飾が施された椅子、聖人像の数々が並ぶ空間は、派手さはないけれどとても丁寧に整えられていて、訪れる人を静かに包み込むような優しさがあります。日常の祈りの場として今も地元の人々に親しまれているのが伝わってきました。