世界遺産サンパウ病院で建築美に浸る

サン・パウ病院の敷地で最初に目に入るのが、壮麗なファサードを持つ管理棟です。この建物は病院の中枢として機能していた場所であり、訪問者を迎える「顔」として、建築家ドメネク・イ・モンタネールの芸術性が凝縮されています。赤レンガと白い石材、彩色された陶器の装飾が織りなすコントラストが美しく、まるで宮殿のような雰囲気。正面玄関の上には聖人の彫像が並び、天井には色鮮やかなモザイクが広がります。内部もまた、ステンドグラスやアーチ状の天井など見どころが多く、建築好きならじっくり時間をかけて鑑賞したくなる空間。病院建築とは思えない美しさから、19〜20世紀初頭のカタルーニャ建築の水準の高さを感じられます。

サン・パウ病院は長年にわたり、修道女たちの献身によって運営されてきました。その彼女たちの生活の場であったのが「修道女の宿舎」です。実は19世紀まで、西欧社会には「看護師」という専門職が存在せず、その役割を担っていたのが修道女たちでした。修道女の宿舎は、左右対称に整然と並ぶ病棟群の最奥にあり、かつての修道女の宿舎と、薬局・調理場を兼ねた建物です。現在この修道女の宿舎は外観のみ見学ができます。

かつて病棟として使用されていたサン・サルバドール棟は、現在では病院の歴史とカタルーニャ医療の変遷を紹介する展示として利用されています。建物内では、14世紀の旧サンタ・クレウ病院から始まる長い歴史や、サン・パウ病院の設立背景、そしてモダニズム建築としての意義について学ぶことができます。建物そのものもアール・ヌーヴォー様式を基調とした装飾で統一されており、展示と空間が一体となった体験を提供します。特に天井の装飾タイルや壁面の陶板画は美しく、ただの展示館ではなく、芸術空間としても価値がある場所です。

サン・パウ病院は、単なる医療機関ではなく、患者の癒しを重視した設計が随所に見られます。その象徴が中庭や庭園、そして複数のパビリオン型病棟の配置です。それぞれのパビリオンは中庭を囲むように独立して建てられ、地下通路でつながっており、静けさとプライバシーを保ちながら、患者が穏やかに療養できる環境が整えられています。中庭にはオレンジの木やハーブ、花々が植えられ、四季折々の彩りを添えています。

サン・パウ病院の最大の魅力は、医療施設でありながらも「芸術作品」として成立していることです。外観だけでなく、内部の隅々にまで施された装飾は、単なるデザインの域を超えています。特にタイル装飾、鍛鉄の門、色鮮やかなステンドグラス、そして天井や柱に見られる繊細な意匠は、当時の職人たちの技術力を感じさせます。また、各建物には聖人の名前が冠されており、それぞれが独自のテーマを持っています。これは病気の種類に応じて病棟を分けるという、機能的かつ精神的な配慮に基づいたもので、患者一人ひとりへの尊重が建築そのものに表現されています。サン・パウ病院は、建築、芸術、医療、宗教の要素が完璧に融合した、世界でも稀有な文化遺産といえるでしょう。広大な敷地内に美しい建築群が立ち並び、現在は4館が内部も一般公開されています。予約の必要も無くアクセスも良いので是非、観光をしてみてください。