インド最果ての地へ。食と自然の宝庫を歩く旅。

インドのトゥルトゥク

インドと聞いて思い当たる都市はデリーやバラナシが王道だろうか。今回は、インドの高山地帯、ラダック地方にある秘境・トゥルトゥク(Turtuk)を紹介したい。1971年まではパキスタン領だった場所で、インド最北端に位置し、パキスタンの国境のすぐそばにある村である。標高は約2900mあるゆえ、冬は氷点下20℃近くまで下がり閉ざされる。1年の中で最も過ごしやすいとされる、7月〜8月の約2ヶ月トゥルトゥクに滞在した著者が、知られざるTurtukの魅力をお伝えする。

目次

Turtukへの行き方

口・レー空港
レー空港

首都・デリーから飛行機で約1時間、ラダック地方の玄関口・レーへと向かう。レーまではバスでもいくことができるが、2日ががりの旅になるため旅程に余裕があり、より景色を楽しみたい人におすすめだ。レーに着いてからは、乗合タクシーでおよそ8時間の山道旅が始まる。道中は標高5,000m級の峠を越え、ガードレールのない細い道が延々と続く。車窓からの絶景に息をのむ一方で、高山病対策は欠かせない。予防薬は薬局で手に入るため事前に飲んでおくと無難。 また、外国人はトルトゥクまでの道のりでヌブラ地域を通過するための許可証が必要なので、レーで事前に取得しておこう。そうしてたどり着いた先に広がるのが、インドの最果て・トゥルトゥクの村だ。

圧巻の大自然。渓流と山肌の迫力ともぎたてアプリコット

川のそばは冷気があり、天然ミストに癒やされる
川のそばは冷気があり、天然ミストに癒やされる

トルトゥク最大の魅力の1つが、圧巻の大自然である。ごうごうと流れる渓流、木々一本ない山肌の迫力に思わず息をのむ。標高約2,900mのこの村は、ラダックの中でも比較的標高が低めなため緑が豊かで、アプリコットやクルミの木が至るところに実る。

アプリコット

トルトゥクは「インドのアプリコット首都」とも呼ばれ、夏には枝がオレンジ色に染まるほど。手に取れば、ジューシーで甘酸っぱい香りが広がる。果実も種も乾燥させてドライフルーツやジャムにして、自然の恵みを余すことなく使う知恵が息づいている。豊かな自然は、人々の食文化にも深く根づいている。山岳の気候に合わせた知恵と、チベット文化が息づく料理にも、その土地らしさが表れているのだ。

山岳地帯の知恵とチベット文化の融合、バルティ料理

バルティ料理のコースメニュー
バルティ料理のコースメニュー

バルティ料理は、地理的にも文化的にもチベット高原と近く、仏教以前のチベット文化の影響を受けている。高地では食材が限られるため、小麦や大麦、乾燥野菜、乳製品を中心に、保存と滋養の知恵が詰まった食文化が発達した。代表的なのは、ジャガイモと野草のスープに地産小麦の手打ち麺を合わせた「Ba-leh」や、蕎麦粉のパンケーキ「Moskot」。スパイスが強く主張するカレー文化とは異なり、穀物や果実、保存野菜を組み合わせた滋味深い味わいが特徴だ。

Ba-lehhotel VIRSA
Ba-lehhotel VIRSA

そんな料理を7品のコースで味わえるのが「Hotel VRISA」。敷地の7割が農地と果樹園で、旬のアプリコットや青リンゴを使ったfarm to tableを実践している。 トゥルトゥクを訪れるなら、ぜひ滞在してその味を体感してほしい。

伝統的な踊りに込められた願い。

踊りの様子
踊りの様子

食だけでなく、舞にもこの地の精神が宿る。バルティスタン地方には、「チョゴ・プラスル」と呼ばれる剣舞がある。勝利や勇気を象徴する舞で、剣と盾を使い、太鼓のリズムに合わせてステップを踏んでいく。かつて王国(マクポン朝)の戦勝を祝う儀礼に由来し、チベットの「チャム舞」にも通じる祈りの舞だ。 武と祈りがひとつに溶け合う瞬間、人々の誇りと祈念が静かに伝わってくる。国境を越える風が吹くこの村で、人々の暮らしと食に触れたとき、インドという国の奥深さを感じずにはいられないだろう。いつかあなたも、トゥルトゥクの風を感じに訪れてみてほしい。

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